LOGIN主人公の聖菜(せな)は、高校の頃からアルコール中毒の父を養っている苦労人。現在は、村岡貿易がやっていた五年働けば奨学金は返さなくてもいい企業奨学金制度を利用して大学に行っていたので現在も村岡貿易の総務部管理課にて広報業務を担当している。そして、同期で同じ総務課の船舶管理課・課長の沼瀬(ぬませ)と付き合っていたのだが……。
View More休日の土曜日、私は実家に帰る支度をしていた。 鏡の前で髪を整えながら、胸の奥に重い石が沈むような感覚がする。 実家には父が一人で住んでいる。母は私が中学生の頃、交通事故で亡くなった。あの日、母の笑顔が永遠に消えた瞬間を、今でも夢に見る。 病院の無機質な匂いに父の泣き叫ぶ声、母の冷え切った指先――あの記憶は、私の心に深い傷を刻み込んでいる。 それ以来、父と二人で暮らしていたが、大学入学を機に家を出てからは別々に生活している。それでも、二週間に一度は帰省する。 父の様子を確認するため、そして――あの役割を果たすため。自分でも吐き気がするほど嫌悪するのに、足は自然と実家に向かう。 父を放っておけないという愛情?いや、それだけじゃない。父の悲しみを埋めるための歪んだ贖罪意識が、私を鎖のように縛っている。母に似ている私が、代わりになれるとでも思っているのだろうか。馬鹿げている。なのに、逃げられない。 実家まではアパートから電車で十分、それから徒歩十五分。約三十分の道のりだ。電車に揺られながら、窓に映る自分の顔を見つめる。 緊張した目で自分に見つめた。桜志くんに会う時の笑顔とは別人だ。彼の前では、聖菜でいられる。純粋に普通の恋する女の子でいられる。でも、実家に近づくにつれ、菜奈の仮面が顔を覗かせる。心臓が早鐘のように鳴る。 父の顔を思い浮かべると、愛情と恐怖、憎しみと同情が混じり合う。 母の死後、父は壊れてしまった。最初はただの悲しみだった。酒に逃げ、泣き叫び、私を抱きしめて「菜奈、菜奈」と繰り返した。 でも、ある日を境に、それは変わった。私を本物の菜奈として扱うようになった。あの瞬間から、私は二つの顔を持つ怪物になった。 聖菜と菜奈。 どちらも本物なのに、どちらも偽物。自分自身が信じられなくなる。 *** 駅に到着し、駅直結のスーパーへ向かう。カートを押し、店内を回る。 二週間分の作り置きと今晩のご飯用。今日は父が好きなオムライスを。卵を手に取り、ケチャップをカゴへ。献立を頭で組み立てる。【和食:ごぼうとひじきの炒め煮、青菜の出汁浸し、鮭と長ネギの南蛮漬け、肉じゃが、筑前煮。】【中華:鶏肉ともやしの棒棒鶏サラダ、セロリと大根の中華漬け、手作り餃子】【洋食:ラタトゥイユ、ロールキャベツ、ハンバーグ。】 この
就業時間の十八時半になり、オフィスから「お疲れ様でした〜」と言う声がたくさん聞こえている中私は就業時間ギリギリに回ってきた社内報の校了前の文字校正作業を赤ペンを走らせながらやっていた。 「先輩、私上がりますけど大丈夫ですか?」 「あっ、うん。岡さん、大丈夫だよ。お疲れ様」 「じゃあ、お先に上がりますね。お疲れ様でした」 岡さんが帰って行くと今度は「聖菜」と呼ぶ桜志くんの声が聞こえてきた。 「……っ、お、桜志くん!」 「お疲れ、頑張ってるね」 「あ、うん。後少しで終わるから先に行ってて、待たせちゃ悪いし」 「先に行く訳ないだろう? 終わるまで待つよ」 桜志くんはそう言うと近くにあったパイプ椅子を持ってきてそれに座った。 「桜志くん、ごめんね。本当にあとちょっとだから」 それだけ言って内容を確認しながら赤ペンを入れ終わったのは十八時四十五分それから十五分後だった。 赤ペン入りの社内報を封筒に入れてまだ作業をしている課長のところに持っていき提出すると、椅子で座りながら寝ている桜志くんに声をかける。 「……っ終わった?」 「うん。待たせちゃってごめんね」 「全然。行こうか」 まだ残っている社員の人に挨拶をしてオフィスを後にする。 会社を出て手を繋いで駅の方に向かうと、駅前だからか会社員の人たちや学生さんで賑わっていて人が行き交っていた。それを見ながら通り過ぎ、少し路地裏に入ってすぐの場所に一軒のお家があり小さく【ティエドゥール】と書かれている看板がある。この言葉の意味はフランス語でぬくもりと言う意味だ。意味通り落ち着いた隠れ家のようなお店だ。 扉を開けると、綺麗な女性が出迎えてくれる。 「いらっしゃい、桜志くんに聖菜ちゃん。瑞希ちゃんたち来てるわよ」 出迎えてくれたのはこのお店のオーナー兼店長で料理人で 「はい。私が残業してしまったので遅れちゃって」 「そうなのね〜、二階の半個室にいるからゆっくりしていってね」 「ありがとうございます」 店の奥にいくと階段がありその階段を登って半個室部屋に向かった。いつもの紫のグラデーションのストリングスカーテンを開けると「あ、やっと来た!」と瑞希が私たちを指差した。 「聖菜も桜志も遅いよ〜待ちくたびれたんだけど」 「ごめんね、私が遅くなっちゃったの……桜志くんは付き
「おはようございます」 朝八時に会社に入った私は出勤の打刻をして、総務部管理課と書かれているオフィスに入り挨拶をしてデスクに座る。 「おはようございます、木ノ下先輩」 「おはよう、|岡《おか》さん」 私、|木ノ下《きのした》|聖菜《せな》は貿易会社としては大手である村岡貿易株式会社にて働いている。今はもう六年目だ。 村岡貿易株式会社は創業百周年を迎えた歴史のある会社で、貿易会社としては有名だ。外航・内航海運事業から始め、今では外航・内航海運事業の他にも物流事業や旅客船事業、地域活性化推進事業がある。 そして部署は本社にあるのは船舶管理部門、船舶営業部門、管理部門で、海上職の乗船業務がある。私は管理部門である総務部管理課の広報業務を担当している。ホームページや会社パンフレットの社外に発信していくツールの制作や社内報を制作するのが仕事だ。そして、グループ会社の商品をSNSにて配信することにも少しだけ関わっている。 隣に座るのは岡さんといって三つ下の後輩だ。私が初めて教育係をした子で、今でも仲良くしているし頼りになるので助かっている。 「木ノ下さん、運航部から連絡がありました。提案されていた候補の中の寄港日で撮影大丈夫だそうです」 「ありがとう、岡さん。じゃあ、撮影部に連絡取らないと」 「撮影部には昨日連絡してあります。撮影チーフの大和さんはいつでも大丈夫だそうです」 「え、ありがとう。助かる〜じゃあ、連絡してみるよ」 岡さんは昨日アポ取りした内容をメモにまとめてくれていたからそれを見て、スケジュール確認を再度してから撮影部の内線で電話を掛けた。 撮影部と運航部のスケジュールを確認して撮影日が決定して両方に確認メールを送信し終わった時にはもうお昼のチャイムが鳴った。 お昼になりパソコンを閉じ、スマホをカバンから取り出して見る。するとタイミングよく彼からメッセージの通知が来ていた。 【いつもの喫茶店で待ってる】 メッセージアプリを開いてトーク画面を見て内容を確認すると、私は子犬のゆるキャラがグッサインをして【了解】と言っているスタンプを送った。 「先輩、今日は彼氏さんとですかー?」 「うん。出張から帰ってきたみたいだから」 「そうなんですね〜いいですねぇ、確か、営業の方ですよね! 私、入社した時に先輩たち見て美男美